2008年9月烏帽子岳・野口五郎岳・水晶岳・鷲羽岳

<初日>

信濃大町に行く中央線特急は八王子発は8時台が最初で、もっと早い便に乗りたかったのだが仕方がないのでそれに乗る。
11時過ぎに信濃大町に到着。
そこからタクシーで高瀬ダムへ。
途中の七倉ダムから先は高瀬ダムのための専用道路で、通るためには通行証が必要らしい。
その通行証は数が少なく、高瀬ダムに向かっているタクシーが持っているとのことで、七倉ダムでしばらく待たされた。
その間に登山届けを出す。

ダムの斜面をジグザグに登り、高瀬ダムに到着。



ダムの右の道を行く。
まずはひんやりとしたトンネル。
これも高瀬ダムのためのトンネルだ。

吊り橋から撮影。
高瀬ダムでは常時トラックが30台稼動し、ダムに溜まった土砂を運んでいる。
こうしないとダムが埋まってしまうのだそうだ。
トラックは6台1グループで全部で5グループある。
高瀬ダムへの道は常にこのトラックが走っている。
タクシーだけがこの道を通ることを許可されているが、そのタクシーもトラックの邪魔をしてはいけないという決まりがあるそうだ。
乗せてもらったタクシーの運転手さんは元々このトラックを運転していたそうで、いろいろと詳しく教えてくれた。



北アルプス三大急登の一つと呼ばれている登りをひたすら登る。
高瀬ダムの標高が1280m、今日の目的地烏帽子小屋の標高が2520m、標高差は実に1240mある。
富士山五合目から山頂までの標高差と大して変わらない。

しっとりとした深い森が続く。
残念ながら展望はあまりない。
これは数少ない展望ポイントから見た唐沢岳。



5時間40分と書かれていたところを4時間で登る。
思ったよりも早く烏帽子小屋に到着。

日没後、小屋の外で夕焼けを眺める。
下はロングタイツにズボン、上はフリースに雨具、真冬用の手袋。
それでも寒い。
色合いの変化を堪能した。



小屋がまた寒い。
何と隙間があり、そこから外が見える。
暖房も効いていない。
さすがに隙間風が入るところでは寝られない。
布団を移動した。

夕食で私の前に座ったご夫妻は何とすでに100名山を踏破したそうだ。
私も100名山全てを登ってみたいとは思っているが、現実には難しい。
何と言ってもお金の問題が大きい。
北海道や東北の山を登るのにはお金がかかる。
それに高い山や北の山は登ることのできる時期が限られている。
その間仕事が忙しければアウトだ。
そのご夫妻は定年退職されていたが、給料も退職金もたくさんもらえる企業に勤め、そのご褒美として定年退職後に100名山を踏破するというのがよくあるパターンである。
私は給料も退職金も安いので踏破するのは難しいと思う。
もう一つ問題がある。
剣岳の存在である。
かなり危険な山らしい。
単独登山はご法度と書いてある本もある。
私は登山に命を懸ける気はない。
剣岳に登らなければ100名山踏破はできない。

<2日目>

野口五郎岳、水晶岳、鷲羽岳を経由して三俣山荘へ所要時間10時間と書いてある。
昨日はコースタイムよりも随分早く登れたので、せっかくだから日本200名山である烏帽子岳に1時間半足して行こう。
きっと10時間ぐらいで歩けるだろう。
その考えが甘かった。

5時半朝食。
6時に烏帽子小屋を出て烏帽子岳に向かう。

朝日に輝く烏帽子岳。



確かに考えは甘かった。
しかし、この日、この時間にここを通らなければこの景色を見ることはできなかった。
これまで見た景色の中でも最も感動的なものの一つだ。
淡く残る朝焼けの色、地上を覆う薄いヴェール、その下には雲海。
これほど幻想的な景色はそう簡単に見ることはできない。



烏帽子岳が近づいてきた。
岩登りする人たちが見える。



この山、意外とスリルがある。
足の窪みをつけてくれているので、そこに足を入れ、鎖を伝って登る。




烏帽子小屋から烏帽子岳の往復はきっちり1時間半かかった。
野口五郎岳方面に少し進んだところからの眺め。
二つのダムが見えるが、向こう側が七倉ダム、手前が昨日の出発地高瀬ダムだ。




振り返ると烏帽子岳が小さく見える。
確かに100名山ではなく200名山だ。




高瀬ダムを望遠で撮影。
写真を撮った吊り橋と大量の土砂が見える。



途中三ツ岳を仰ぎ見る。
三ツ岳は山頂ではなく脇道を通る。




西に赤牛岳、その向こうに薬師岳を見る。
赤い土の色が印象的だ。




槍ヶ岳が見えた。
この山は何度見てもゾクッとする。
空がお尻を突かれて痛がっている。



延々と続く尾根道を行く。
中央に野口五郎岳、その左に槍ヶ岳、右は水晶岳が見える。




これまで歩いてきた道を振り返り眺める。



どう急いでもコースタイムきっちりかかってしまう。
なぜ?
どうやら私は眺めがいいと遅くなるらしい。
眺める時間も写真を撮る時間もできるだけ短くしようとしているのだが、それでも眺めたり写真を撮ったりする回数がやたらと多いためにどうしても時間がかかってしまう。
絶景を楽しみ、その写真を撮るために登っているのだから、楽しまなければ何をしに来たのか分からない。
楽しみながらなるべく急ぐ。
食事はおにぎり5個。
これを1回5分の休憩で1個ずつ食べる。
座るのはそれだけ。

ようやく野口五郎小屋に到着。
遠かった。
このあたりは風が強いらしく、テントは禁止されている。
小屋も屋根に石を置いて飛ばされないようにしている。




ここで野口五郎岳について書いておきたい。
五郎というのは岩のごろごろしたところという意味である。
野口というのは近くの集落の名前。
決して歌手が先ではないので誤解のないように。
野口五郎は岐阜県出身で、芸名を決める際、出身地近くの黒部五郎岳(標高2840m)か野口五郎岳(標高2924m)から名前をもらおうという事になったのだが、結局標高の高い野口五郎岳を選んだそうな。
山を知っていれば黒部五郎岳を選んだのではないだろうか。
黒部五郎岳は非常に美しい山で100名山にも選ばれている。
それに対して野口五郎岳は白っぽいあまり面白くない山で100名山にも選ばれていない。

野口五郎岳からの光景。
右は水晶岳、左は鷲羽岳。
どちらも緑の色合いが美しい。
一旦水晶岳に登り、引き返して鷲羽岳に登る。




水晶岳にはずっと感動していた。
感動しながら何時間も歩いた。
この山は美しい。




鷲羽岳を左に見ながら尾根道を進む。




道は平坦ではない。
常に登ったり下ったりしている。
時にはこうした岩場を歩く。




振り返り野口五郎岳を眺める。
あの遥か彼方から歩いてきたのだ。




水晶小屋ではすでに今日の行程を終えた登山者達がくつろいでいた。
この小屋は狭いため混雑する時期にはなるべく避けた方がよいそうだ。

水晶小屋から水晶岳への道。




水晶岳の山頂に人が立っている。



水晶岳に到着。
山頂は数人しか立てないほどの狭さでごろごろした岩の集まりである。

水晶岳山頂からの眺め。
水晶岳から鷲羽岳、さらにその向こうへと延々と続く尾根道。
その彼方に槍ヶ岳が聳え立つ。




北を見ると、赤牛岳、さらにはその先に続く尾根道が見える。
中央遠方に黒部ダム、その西に立山が見える。



来た道を引き返し、水晶小屋から鷲羽岳に向かう。

鷲羽岳手前のワリモ岳が見えてきた。




ワリモ岳から見た鷲羽岳。




振り返り水晶岳から歩いた尾根道を眺める。




一度下り、鷲羽岳へ登りなおす。
途中、振り返りワリモ岳を見る。
すでにやばい時間だ。
西日が差し、東側は日陰になっている。




ワリモ岳の先に水晶岳が見える。




鷲羽岳山頂から槍ヶ岳を眺める。
日が傾いてきた。
早く小屋に入らないと。
三俣山荘到着は5時半ごろになりそうだ。
本来4時頃にはその日の行程を終えるべきなのだが、見通しが甘かった。
水晶小屋手前で三俣山荘に電話をしたら大丈夫とのことであった。




鷲羽池から槍ヶ岳を眺める。




今日の宿、三俣山荘が見えてきた。
その向こうは明日登る予定の三俣蓮華岳、その先に双六岳が見える。
若いカップルが猛スピードで追い抜いていった。
ここはかなり急で危険な下り坂で浮石も多く、慎重に下るべきだと思うのだが、あまり知識がないのか、それとも脳の処理速度が私よりも格段に速いのか。




水晶岳に登る前から、槍ヶ岳はずっと雲と格闘していた。
雲が槍ヶ岳を制圧しようとするのだが、槍ヶ岳は見えない力でそれを跳ね返すのだ。
しかし鷲羽岳あたりでついに力尽き、雲に覆われる。
今日はもう槍ヶ岳は見られないと思った。
残念だが、しかし朝からずっと長い時間楽しませてもらった。
これほどの好天はそう滅多にないだろう。
そう思いながら鷲羽岳を下っていると、何と徐々に雲が取れていくではないか。
体に電流が走るほど感動した。
「いないいないばあ効果」である。
ずっとそこにあるとありがたみが薄れる。
一度なくなると、とても貴重なものに思える。
鷲羽岳を下りながら、早く小屋に着かなければならないのに、何度も立ち止まり、眺め、写真を撮った。
これはその中でも特に夕日に染まった1枚。




やっと三俣山荘に着いた。
5時半丁度だった。
朝6時からほとんど休まず、11時間半アップダウンを繰り返した。
これは最長記録だ。
今後はもっと余裕のある計画を立てよう。

一度小屋に入ってから再び外に出て、さっき登った鷲羽岳が夕日に染まる様子を撮った。




他の人はすでに夕食を終えていた。
6時に夕食を用意してもらったが、たった一人での食事となった。
何と食堂から槍ヶ岳が見える。
徐々に暗くなりつつ色合いを変える槍ヶ岳を堪能しながら夕食を取った。




満員ではないが、平日にしては人が多い。
人気のコースなのだろう。
みんな寝るのが早い。
7時に寝て何時に起きるつもりなの?
私はラウンジで本を読んだりして8時に寝る。

「三俣蓮華岳・双六岳・鏡平」に続く。